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女性ウスタの村

3日目。

陶芸シンポジウムに参加してきました。
国内の陶芸家、研究家の方々が、それぞれトルコ陶芸の歴史や未来、課題などについて
写真や映像を使いながらお話をされました。

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一人一人の話のあとには挙手で質問の受け答えや討論があって、なかなか有意義な時間を過ごせました。
ただノートをもって話をメモっている人間が日本人の僕だけというのは、ちょっと如何なものかと・・・。


さて今回、Ayşegülさんの陶芸産地レポルタージュが面白かったので紹介します。
プロジェクターの画像を撮ったので写真が鮮明ではないですが、そこはご了承を。。

時は21世紀、今も古くから続く伝統と技法を受け継ぎながら昔ながらの焼き物を作る村があります。
イスタンブルから南東350km、エスキシェヒル県にある小さな村、Sorkun。人口約300人。
ここでは、村内で掘り出される粘土を使って主に土鍋が作られています。
はい、ここまではいたって普通の田舎の陶芸産地って感じですね。
しかぁーし、Sorkunはそんなありがちな村ではナイ!

この村で、ろくろをひいて土鍋を作るのは・・・

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女性!


女性ウスタの村_d0162815_7541980.jpg
ここでは女性が粘土をこねこね、手ろくろで土鍋や蓋を作るのです。

トルコには、チニの産地であるイズニックやキュタヒヤをはじめ、アヴァノスにチャナッカレ等
それなりに多くの焼き物の産地がありますが、女性がメインで焼き物制作している産地って
あまりないんじゃないかな。
チニは絵付けに女性の方が多く関わっていますが、成形は基本的に男性の仕事だと思うし。。。

しかしここSorkunでは、女性が若い頃からろくろで土鍋を作ることを覚えます。
男はろくろにノータッチ、そこは女性しか触れられない言わば聖域。
ろくろは母から娘へ受け継がれる一族の技。
ここでは土鍋が作れないとお嫁にいけないそうです。


男は何やってるのかって?
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ハハハ、トルコの男は嫁に働かせて自分は口笛でも吹いてるに決まってるじゃないか!


と、まあそれは冗談で^^男にも男の仕事があります。それは後ほど。
しかし、ろくろで土鍋を作るのは女の仕事、男がろくろを回すなんてみっともない、恥だ!
・・・なんて、面白い慣習でしょう?


女性ウスタの村_d0162815_8284487.jpg
でも中にはこんな感じで、まだ制作に慣れない恋人を手伝う若者もいるそうです。
しかしカメラを向けると恥ずかしがって顔を隠したとか・・・。


これ、土鍋のふたです。中心に3点指で押したようなへこみがありますね。
女性ウスタの村_d0162815_816765.jpg
実はこれが制作者の印です。
日本では茶碗や皿の裏に制作者の印がありますが、あれと同じようなものですね。
制作者によって形や位置や数が違っていて、この印を見ることで
「これは三丁目の磯野さんちのサザエさん作」みたいなことが分かるらしいのです。


ハイここで男子登場!
女性ウスタの村_d0162815_8413428.jpg
そう、男の役目は焼成用の薪割りです。
良かったやっぱり力仕事は男の役目だ、与作は木を切るヘイヘイホー!


馬の背にのせ薪を運びます。
女性ウスタの村_d0162815_848146.jpg
ええ、結局力仕事は馬任せ。


薪の準備ができたらいざ焼成。
女性ウスタの村_d0162815_8513249.jpg
見ての通りの野焼きです。
土鍋を逆さにして並べて、端から順に一列ずつ薪(松の木)をくべて燃やしていきます。


この焼成法のコツは風を読むこと。
女性ウスタの村_d0162815_855818.jpg
風上から風下へ、早すぎず遅すぎず、炎が土鍋の列を進んでいくのを調整します。
この火加減を見守るのも女性の役割。


その間、男は何やってるのかって?
女性ウスタの村_d0162815_91153.jpg
ハハハ、トルコの男は嫁が作った土鍋の上に乗っかって遊んでるに決まってるじゃないか!


と言うのは冗談で^^彼は「野焼きでもこんなに土鍋は丈夫だぞー」っと
デモンストレーションをやってくれたらしいです。

ちなみに焼成温度がどれくらいになるのか質問したところ、
村の人もはかったことがないそうで(まあそうでしょうね・・・)
正確なところは分からないということなのですが、
Ayşegülさんの考察では700℃から780℃くらいの間なのではないでしょうか、ということでした。


焼成した土鍋。
女性ウスタの村_d0162815_9161387.jpg
口と内側が炭で黒く変色しているのがお分かりでしょうか。
この黒い部分が多いほど土鍋の価値が上がるそうです。

一度外部の人の勧めで陶芸窯で土鍋を焼いたところ、当然のことながら均一に赤く焼けたその土鍋は
まったく売れずに制作者家族は困ってしまったということ。
なので今でも窯は使わず、野焼きの炭の味を生かした昔ながらのやり方を守っているそうです。
焼きムラや炭色に価値を見いだすという感覚は、日本人には共感しやすいものかもしれないですね。

この土鍋、今でもトルコの家庭でこんな感じで煮込み料理等に使われてます。
(といっても僕は見たことありませんが)
女性ウスタの村_d0162815_9303197.jpg
鉄やステンレスの鍋よりやっぱり土鍋の方が味がいいそうですよ。
うん、その感覚も分かるね日本人なら。


ちなみに・・・
女性ウスタの村_d0162815_930364.jpg
嫁が作った土鍋を売って札束を数えるのは男の仕事。
うっしっし、今日はマスオ君とノリスケ呼んで一杯やるかな。。。



<おまけ>

今回記事を書くにあたってSorkun村についてインターネットで再度調べてみたら
YouTubeに「Sorkun村のろくろ」というレポルタージュ動画がありましたので、
参考にのせておきます。嬉しいことになんと英語字幕付きです!
2つ合わせて25分弱とわりと長いですが、興味のある方は観てみてください。






ちなみに動画では村の男性の役割もしっかりと映されています。
記事では男性を面白可笑しく書きましたが(Ayşegülさんがそんな写真ばかり提供してくれたので)
もちろん村では女性男性助け合って土鍋作りに取り組んでいらっしゃるんですよ。



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Commented by at 2011-08-14 12:41 x
土鍋しか作ってないんだね。
しかしこの焼成温度とは…
日本人の感覚だと耐久性や染み込みが気になるなぁ
でもそのやり方で今も需要があるってことはそのあたりもそれなりにクリアしてるのかな。

土鍋を作れないと嫁にいけないっていいねw
いつか行ってみたい☆
Commented by orientlibrary at 2011-08-14 20:34
トルコの陶芸シンポジウムですか。行ってみたい!
でも、言葉がわからないとダメですね、、

女性だけが陶器を作る村、イランにもあるそうです。南イラン・バローチスタン州のKALPURKAN 村。
作品を、日本のあるイベントで見ましたが、古代の模様のようで興味深かったです。
ずいぶん前ですが、そのことをブログに書きました。^^

「女性だけが陶芸に従事する村に、古代を思わせる陶器があった」
http://orientlib.exblog.jp/4632518/
Commented by teppeiyama at 2011-08-15 08:04
>北さん
耐久性や染み込み、高温焼成の焼き物に慣れた日本人としては気になるでしょうが
こちらではこの野焼きの土鍋の耐久性や染み込みがスタンダードなわけですから
これをクリアするしないという捉え方自体がナンセンスなのかもしれません。

長年使っていると染みや渋がついてしまうことを器の風味が増すとして良しとする日本の陶器を、
不潔だ、器は磁器で作れば清潔で耐久性もあるのに、なんて不合理的な文化だろう、なんて
もし外国人が考えたとしたら、日本人としては「分かってないなあ・・・」って思うでしょ?

たぶんこの土鍋にだって彼らなりの哲学があって、僕らが心配してしてしまう耐久性や染みなんて
彼らにしたらそこに彼らなりの侘び寂びが存在しているのかもしれません。
そう考えると、野焼きに徹するこの土鍋にはボーンチャイナを越える品質があるのかもよ^^
Commented by teppeiyama at 2011-08-15 08:34
>orientlibraryさん
イランの女性陶芸の記事、興味深く読ませていただきました。

記事を読んでナルホドなーと思ったのは「女性たちはろくろを使わない。」ということ。

Sorkun村の土鍋の制作方法は、手ろくろを使ったヒモ作り。
“水引きろくろ”を使って制作をしないという点で同じですね。

YouTubeのレポルタージュビデオによると「アナトリアでは最初の陶器は女性が作っていた」
「ろくろ(水引き)が発明された後、陶芸は男の仕事に変わった」ということでした。

“陶芸というのは元々女性の仕事で、水引きろくろが発明された後にそれは主に男性の仕事になった”
もしかしたらアナトリアだけではなく、世界中でそうだったのかもしれない。

そうすると、現存する世界最古の土器とされるあの縄文式土器(国立博物館にある火焔土器)は、
嫁泣かしのベテラン婆さんがせっせと作ったのかもしれないなあなんてことを考えてしまったり・・。
なんだか古代のロマン!?を感じてしまいますねえ^^
Commented by at 2011-08-15 09:43 x
なるほど、確かに!
そのあたりの視野が広がれば世界が広がるんだろうなぁ。
近頃自分の価値観が揺さぶられる事が多くて楽しいよ☆焦るけど★
Commented by zeytin at 2011-08-15 15:06 x
わたくし、この土鍋持ってます。
ギュヴェッジを作るんだと、意気込んで買いました。
なべの中は真っ黒。最初は使うの本当に躊躇しました。
2回薪で焼き締めましたと書いてありました。
洗剤で洗わないでくださいとも。
ふたに指のあとがないのでこの村のものではないでしょうが、
そっくりです。
材料を詰め込んで電気オーブンで1時間半ほど料理すると、そりゃあお肉が柔らかくおいしかったです。
ただ、難点は鍋のそこをごりごりやると黒いものがプカプカと・・・。
洗うなというので、水洗いして乾かして保存。
日本の土鍋も長年使うと味がしみてきておいしくなるって言うではありませんか、この土鍋もトマト味がしみてくるのかな?
なんて考えております。実際のところどうなんでしょうね。
Commented by teppeiyama at 2011-08-16 07:09
>北さん
そうだねー、視野を広げることって大切だってすごく思うよ。
でもインプットばかりが多くて、うまくアウトプットができてないんだけどねー。
Commented by teppeiyama at 2011-08-16 07:45
>zeytinさん
まさか身近な人でこの土鍋を持っている人がいるとは!
蓋の指のあとは村のすべての人に共通のサインというわけでもないようなので
それがなくてもこのSorkun村で作られた可能性は高いと思いますよ。
実際、写真には指の跡がない蓋の土鍋もたくさんありましたしね。

>最初は使うの本当に躊躇しました。
ちょっと笑っちゃいました^^

>鍋のそこをごりごりやると黒いものがプカプカと・・・
それでもこの土鍋を使うzeytinさんの心意気に乾杯です(笑)

>この土鍋もトマト味がしみてくるのかな?
耐久性はあまり高くないと思いますので、トマトの味が染み込む頃には欠けや割れが多くなって
使い物にならなくなってるかもしれないですね。
でもおじさんが自信満々に乗ってるくらいだから、案外丈夫なのかな?

これからも大事に使ってくださいな。
Commented by boncuk*tile at 2011-08-16 19:23 x
去年アヴァノスに行った時も、おじさんがろくろを回して
女性が絵付けをしていたので、これが普通だと思っていましたが
この村は、女性が回して器用に作っているのですね。
同じ形器用に作る様は、職人ですね。
トルコでエリシをカイナナからゲリンに伝承するのと
同じように、この村では土鍋作りが伝承されているのですね。
しかし、男性の役割は・・・ってくだりが本当にツボにはまって
しまいました。
畑で働き、絨毯を洗い・ユフカを広げて・子どもを育てる女性。
チャイハーネでオーケーやりながら、煙草をふかすオヤジたち。
だよね~っと。でも、土を掘る力仕事はやってましたね。
(女性も運んでいましたが・)
土鍋の染みてくるという件、昔よんだ「美味しんぼ」という漫画で
長年使い込んだ土鍋に水と白米だけをいれて、炊いたおかゆが
輝くようなごちそうになって、お客を驚かす・・って話。
土鍋に長年の野菜や魚・味噌などの味がしみ込んでいるって
主人公が語っていましたな~
(名前、面倒なのでこちらでおじゃまします)
Commented by teppeiyama at 2011-08-17 04:56
>yildiz・・・改めboncuk*tileさん
シンポジウムでこのSorkun村の話をしてくださったのは女性の方だったのですが、
「女性はご飯を作って子供を育てて土鍋も作って、なんて働き者」
「男ったら遊んでばかりでだらしない」などと
まさにトルコの社会を風刺した感じのレポルタージュでしたよ^^半分ジョークでしょうけど。
土鍋のいろんな話を聞くとなんだか使いたくなってきました。
Sorkun村のこの土鍋、いつか見かけたら購入して使ってみようと思います。
Commented by makapaka at 2011-08-17 05:10 x
すげーっ!!
すげー面白い記事でした!
なんかもう、土鍋といえばSorkun、
Sorkunといえば土鍋、みたいな。
イメージ刷り込まれ完了。
Commented by teppeiyama at 2011-08-18 07:57
>makapakaさん
すっげーっしょ!
こりゃSorkun土鍋買うっきゃないね!
今年の冬は土鍋パーティーだっ。
Commented by zeytin at 2011-08-22 16:32 x
正直白状しますとね。。。
これで冬に湯豆腐しようとか思ってたんですよ。。。
でもね、底をゴリゴリ黒いものがぷかぷか・・・・。
あう・・・・。
Commented by teppeiyama at 2011-08-23 06:01
湯豆腐は・・・きついですね(笑)
黒い炭がはがれ落ちても気にならない鍋ものをしたほうがいいですね。


うーん・・・闇鍋?
Commented by kaori at 2014-01-26 23:48 x
こんにちは。Sorkun村ってシデでしょうか?

ちょっとこういう直火にかけられる小型の鍋を探していまして、このギュベッチはアンタルヤにもあるのですが大きすぎるので作ってくれるところに行って聞いてみようかと思いました。もしご存じだったら教えてくださいませm(__)m
Commented by teppeiyama at 2014-01-27 19:32
>kaoriさん
Sorkun村は、残念ながらシデではなくてエスキシェヒルなんです。
ギュベッチを製作しているところ、Sorkun村の他にもたくさんあるんでしょうけど
あまり詳しくないんです、申し訳ない。。でも
イスタンブルのタフタカレっていうところで、小型の鍋があったように記憶していますよ。
Commented by kaori at 2014-01-27 22:55 x
エスキシェヒルじゃ遠いですよねえ。いえいえ。ありがとうございました(*^-^*)
by teppeiyama | 2011-08-14 11:07 | 陶芸 | Comments(17)

トルコに暮らす アラフォー男子の奮陶記  


by teppeiyama
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